845 (hashigo)/制作ユニット

hashigo

woodwork/illustration/automata/story

Works

引き出しの王様

1. 3つの引き出し

2. フォークの王様

3. スプーンの王様


ある家の真ん中に引き出しのあるチェストがありました。ごく普通の鍵付きチェストですが、その引き出しは長い間引き出されずにいたのでした。鍵をなくした訳でもなく、引き出しが壊れた訳でもありませんがなかなか引き出せなかったので、ある時から引き出しを引き出そうとする人はいなくなっていったのです。

1. 3つの引き出し
チェストには3つの引き出しがありました。不思議なことに真ん中の引き出しは時たま少し隙間が開いていることがありました。まるで誰かが出入りしているかのようにほんの少しだけ。でも誰も引き出しが開くのをみたことはありませんでした。それはそっとひと気のなくなった時間に開いているようでした。 実は引き出しには2人の王様が住んでいました。2人は別に一緒にいたくて一緒に住んでいる訳ではないのです。なんだかセットにされることが多く、たまたま同じ引き出しの出身だっただけでした。ですから仲が良い訳でも悪い訳でもありません。ただただそこが居場所だったのでお互いに住み続けているのでした。右側にはひとりの王様の部屋、左側にはもうひとりの王様の部屋がありました。真ん中には2人で使うキッチンがありましたが、食べる時間以外はそれぞれの部屋で過ごすのでした。2人の王様の身なりは少し変わっていました。なんてったってチェストに住んでいるのですから、普通の人間の身なりであるわけがありません。ひとりは痩せっぽっちで、ひとりは太っちょ。ひとりは先が尖ったフォークの冠をかぶり、ひとりはまん丸なスプーンの冠を被っていました。そう、二人はフォークとスプーンの王様なのでした。いつも静かに暮らしている2人は誰とも会うことがない日々が続いていました。ふとした時に想像するのでした、それもこれもまた、家臣がいたらと…。
2. フォークの王様
フォークの王様は気難しい人でした。 でも、家臣たちがどんなに困難なことに出会しても的確に指示を与え、正しい道へと導くことができました。 どんな人にもどんなことにも正しくないことは正しくないと言えるある意味頑固な性格でしたが、そんな王様を嫌うものはいません。 間違ったことをしたならば間違ったと謝れる王様だったからです。 よく怒るけれど怒られる理由は正しくて、家臣は初めは辛い気持ちになるけれどやっぱり自分に責任があるから反省して謝る。だから家臣達からとっても尊敬される王様なのです。 それもこれもまた、家臣がいたらの話ですが…。
3. スプーンの王様
スプーンの王様は脳天気でした。 でも、いつだって明るくて一緒にいると楽しくさせてくれるので嫌うものいませんでした。 家臣がどんなに困難なことに出会しても、何とかなるさとそういう気持ちにさせ、いつも元気をくれるのです。 どんな人にもやさしく、どんなものも大切にする王様は。間違ったことしても笑い飛ばしてくれるのです。 悪いことをしてもいつだって許してくれるのをみんなが知っていました。 しかし、それがゆえに困ったこともありました。たまに泥棒が色々なものを盗んで行くのです。 でも王様は追いかけないし、探さない。 「困っているから持って行くんだ。だからいいんだ」というのです。 なぜか家臣も 「それもそうか」と思ってしまい泥棒を捕まえようとはしません。 そんなこんなで家臣達からとっても尊敬される王様です。 それもこれもまた、家臣がいたらの話ですが…。