子うまの坊やとバタバタあひる

青い空に、白い雲。優しく気持ちの良い風が、そよそよと吹いています。子うまの坊やは、牧場に住んでいました。牧場はとても広くて、子うまの坊やの知らないことばかりで、とても楽しい場所でした。いろんなことが知りたくてしょうがない子うまの坊やは、昨日はあっちの道へ、今日はこっちの道へと、新しいことを見つけるために歩き回っていました。
ある優しい風が吹く日も、子うまの坊やは、はじめてみつけた道を歩いていました。すると、すこし変わった動物に会いました。はじめてみる動物は、バタバタと羽を羽ばたかせて石の上で繰り返し飛び跳ねていました。何をしているのか気になった子うまの坊やは、しばらくバタバタするこの動物をじっと見ていることにしました。
一回、二回、三回。四回、五回、六回。
しばらく見ていましたが、ずっと同じことの繰り返しで、バタバタバタバタしているだけでした。子うまの坊やは、その動物の名前を知らなかったので「バタバタさん」と呼ぶことにしました。
1. いちがつ
「バタバタさん、おめでとうございます。」
ぴょんぴょん飛んでいる姿は、誰かにお祝いを伝えているようだったので、こうまの坊やは一緒になって、ぴょんぴょんしながら声をかけました。
「だれがバタバタさんだって?それにおめでとうって、なんのお祝いだい?」
アヒルは不思議そうな顔をして言いました。
「だって、誰かにお祝いをつたえていたんでしょ?だから、ぴょんぴょんと飛んでいたんだよね。ぼくもうれしいときは飛び跳ねるんだ。」
と、こうまの坊やは答えました。
「違う違う。」
とアヒルが笑い、
「実は今、探し物をしていてね。あそこにたくさんの白くて丸いものがあるでしょ?あれをとろうとしていたんだ。」
と教えてくれました。
2. にがつ
「そうだったんだ。じゃあ、ぼくが手伝ってあげるよ。ぼくの頭にのっかって飛べば、あれを掴めるんじゃない?」
というと、こうまの坊やはアヒルを乗っけて、思いっきりジャンプしました。
それと同時に、アヒルも精一杯の力を振り絞って空に向かって飛び上がりました。
「それー!!」
勢いは良かったものの、わたのように白くて丸いものには手が届かず、残念なことに地面についてしまいました。こんなにも高い場所から飛び跳ねても届かないのだから、手に入れることは難しいと思ったアヒルは、別の方法がないか考えることにしました。
しばらくすると、こうしの坊やが言いました。
「ぼくがバタバタさんと一緒に探してあげるよ。ぼくの知っていることも教えてあげられるし、ぼくがいれば高いところも見れるよ。それにふたりの方が楽しいよ、きっと。」
アヒルはしばらく黙って考えてから、こう言いました。
「よし、それなら、ふたりで探しに行こう。それとわたしのことは、バタバタって呼んでくれていいから。」
アヒルがちょこんとこうまの坊やの頭の上に乗っかると、ふたりは探しもの出発しました。
3. さんがつ
「バタバタ、それで、何を探しているの?」
とこうまの坊やが聞くと
「白くて、丸くてね。ふわふわにみえるものなんだけどね。実は本物はみたことないんだ。」
こんな話をしながら歩いていると、空にうかんでいたものとそっくりなものを見つけました。
「ふわふわで、丸くて、白い。空にあったものが落ちてきたのかな。」
ふたりは、じっくり観察しました。でも、どうやら探していたものとは違うようでした。アヒルはがっかり。でもこうまの坊やは色々と考えていました。
「ぼくが知っている、ふわふわで丸くて白いものを見に行ってみようよ。」
こうまの坊やは、アヒルの前に頭を差し出すと、アヒルは小さく微笑みながら飛び乗りました。落ちないようにぎゅっとこうまの坊やのたてがみを握って、ふたりは探し物に出発しました。
4. しがつ
「なんていいにおいなんだ。」
とアヒルは目を閉じて首を目一杯伸ばし、くちばしを前に突き出して甘い空気をたくさん吸い込みました。こうまの坊やも匂いにつられて道を行くと、そこにはふわふわとした白い花が一面に広がって、まるで雲の上のにいるような風景でした。
「うわぁ。」
思わず小さな声がこぼれたふたりは、誘われるかのように花の中へ歩いていくと、甘い匂いとともに花のかけらのようなふわふわしたものが空へと飛んでいきました。ふわふわした花のかけらが風に乗ってゆっくりと空へ向かう様子を、ふたりは優しい気持ちで静かにじっと眺めていました。今までにみたこともない優しい風景に見惚れていると、こうまの坊やはあることに気がつきました。
「ねぇ、バタバタ。空に浮いている白くて丸いものって、もしかしてこの花のかけらが空で集まっているのかな。」
「そうかもしれないね!」
アヒルはそういうと、こうまの坊やに花に近づいてと頼みました。
バタバタは覗き込むように花をじっくりと観察をしました。しばらくするとアヒルは長い首を小さく横にふり、
「探しているのは、これではないみたい。でも、とても素敵なものに出会えてとても良い気分だよ。」
するとアヒルは、ひとつ花をくちばしで摘みました。すると小さな花のかけらは、少しずつ花から離れ、空へと飛んでいきました。ふたりはしばらくの間、空へと向かう花のかけらを見送りましたした。
「そろそろ、行こうか。」
とこうまの坊やが声をかけると、名残惜しそうにふたりは歩き始めました。
5. ごがつ
こうまの坊やは、早くアヒルにふわふわで丸くて白いものを見せてあげたくて、だんだんと早足になって道を行きました。
「今日は、いるといいんだけど。」
と、こうまの坊やはつぶやきました。
「いつもその場所にいるものではないのかい?」とアヒルが聞くと、こうまの坊やはこう答えました。
「そうなんだ。ほとんどその場所にじっとしていて動かないんだけど、たまにいなくなっている時があるんだ。」
今日はいるのかどうか、ふたりはドキドキしながらその場所に向かいました。
少し景色が変わり、小さな木々が並んできるところに来ると、こうまの坊やは早足をやめ、ゆっくりと歩きながらある木に近づきました。
「静かにね。驚いてしまうかもしれないから。」
こうまの坊やはそういうと、ゆっくりと木の後ろを覗き込みました。
こうまの坊やもアヒルも息を止めて、音を立てないようにしてみると、そこには、小さな白い丸いものが4つありました。
「見てみて、これだよ。少しふわふわしていて白くて丸いでしょ?いなくなっていなくて、良かったよ。」
アヒルは覗き込んでよく見てみると、ふわふわな鳥の羽がついた白くて丸い卵でした。
「これではないみたい。これは鳥の卵かな。私もこの卵から生まれたんだよ。」
アヒルはニコニコしながら言いました。
「ありがとう。残念だけれど、また探しに行こう。次はどこを探してみようか。」
こうまの坊やは残念でしたが、今まで見ていた小さな白い丸いものがどんなものなのかを知ることができたので、あまりがっかりしませんでした。むしろ、これから沢山の知らないものに出会える気がして、ワクワクすらしてきていました。
「そうだね。次はどこに探しに行こうか。しばらく考えてみよう。」
そういうとふたりは、出会った場所へと戻って行きました。
6. ろくがつ
出会った場所に戻ると、アヒルはこう言いました。
「青空の日には見つからないかもしれないから、今日とは空の色の日に探しに行こう。」
「空の色の日?」
こうまの坊やは、首を傾げて問いかけました。
「そう、空の色が灰色で、水の粒が沢山落ちてくる日がたまにあるんだ。もしかしたら、水の粒の日だったら何かわかるかもしれない。」
アヒルがそういうと、ふたりはまた会うことを約束してそれぞれの家に帰りました。
こうまの坊やはそれから毎日、水の粒が落ちてくる日を待ちわびて、空を見上げていました。
何日も何日も綺麗な青空が広がり、気持ちのいい日が続きました。いつもなら嬉しいはずでしたが、水の粒を待っている今は少しがっかりするの日々でした。
しかし、そんな気持ちが晴れる日やってきました。朝から続いていた青空が、お昼を過ぎると灰色に変わったのです。
「いよいよだ」とこうまの坊やは、ワクワクが止まらなくなりました。
次の日、朝、目覚めると水の粒が沢山空から落ちてきていました。
「ついにきた!」とこうまの坊やは急いで出かける準備をして、家を飛び出し、アヒルとの約束の場所へ向かいました。
約束の場所につくと、ちいさな傘を持ったアヒルが待っていました。
「久しぶりだね。探し物に出かけようか。」
小さく微笑んで嬉しそうなアヒルがそういうと、いつものようにこうまの坊やの顔にちょこんと座り、探し物に出発しました。
水の粒の日は、何もかもが違って見えました。周りは静まり返り、ポツポツという水の粒の音だけが響いていました。いつも元気な花や木々は、水の粒の日は静かにじっと、何かに耐えているように見えました。
「青空の日は、鳥さんや他の生き物もいるのに、今日はいないんだね。」
こうまの坊やは少し寂しそうに言いました。
「そうだね。でも、違うからこそ探し物が見つかるかもしれない。」
アヒルは、こうまの坊やを元気づけるように言いながらあたりを見渡すと、青空のような丸いを見つけました。
「あれは何かな?青空が落っこちてきているみたいだ。」
ふたりは、急いで青空のような丸いものに近づくと、そこにはちいさな生き物が座っていました。
「君たち、何を急いでいるんだい?」
ちいさな生き物は、二人に話かけました。
「ぼくたちは探し物をしているんだ。君はだれ?これは青空のかけら?」
こうまの坊やがそう言うと、ちいさな生き物は大笑いしてこう返しました。
「ぼくは、カエルっていうんだ。こんな水の日が大好きでね。水の日には、ゆっくりと水浴びを楽しんでいるのさ。それはそうと、これが青空のかけらかだって?
変なこという子だな。これは人間の道具さ。どんなことをするものかはわからないけど、青空のかけらではない事だけは保証するよ。」
カエルは、ふたりよりも物知りで、人間のことや空のこと、この世の中には、まだまだ知らないことが沢山あることを教えてくれました。こんな物知りのカエルなら探し物を知っているに違いない。ふたりはカエルに探し物の相談をすることにしました。
「ぼくたち、探し物をしていて。白くてふわふわしていて丸いものを探しているんだよ。水の日に見た事ない?」
カエルはじっくり考え始めました。ちいさな声で何かブツブツと呪文を唱えるようにつぶやくと、
「水の日には見たことないな。君たちの周りにないんだったら、もしかしたら人間の道具かもしれないな。人間の近くを探してみるといいよ。不思議な道具を沢山持っているから。」
と言いました。
「人間の道具か。探してみるよ。ありがとう、水浴び楽しんでね。」
カエルにそうお礼をいうと、ふたりはカエルの楽しみの邪魔をしないように足早にその場を後にしました。
8. はちがつ
人間の近くに住んでいるふたりでしたが、人間の不思議な道具はあまり見たことはありませんでした。不思議な道具はどんなことに使うんだろうと想像を膨らませながら歩いていると、人間が何やら作業しているところに出くわしました。
「何しているんだろう」
ふたりは小さくかがんで、静かにそっと人間の様子を観察しました。
きれいに整った土に生えている草のサイズを確認して、小さく頷くとその草を引き抜いていきました。そして、引き抜いた草は丸い板が4箇所についた箱に入れていきました。箱は押すとゴロゴロと動くようで、草が箱いっぱいになると人間はその箱を押して、道を歩いてどこかへ行ってしまいました。
何をしていたかを確かめたくなったふたりは、人間がいなくなったかを確認してから、今まで人間が作業していた場所へ近づきました。きれいに整った土には草を抜いた跡にあいた穴があちらこちらにありました。穴には何もありません。土をたどっていくとまだ草が生えているところが残っていました。アヒルはどうしても草の下に何があるのかが知りたくて、草を掴むと勢いよく、引っ張り上げました。
ぽんっ!と草は抜け、草の下には鮮やかなオレンジ色の実がついていました。
「わぁ、これは僕の大好物だ!」
いつも食べている大好物がこんなところから出てくなんて思ってもいなかったこうまの坊やは、大興奮。足をバタバタとさせて、喜びました。
「そんなに大好物なんだな。じゃあ、少し休憩しながらいただこうとするか。」
アヒルはそう言うと、ついている土を羽で払ってあげて、微笑みならがオレンジ色の実を差し出しました。
こうまの坊やは小さな口でかじると、ゆっくりとよく噛んで、味わいながら食べました。いつも食べている味なのに、その時はいつも以上に美味しく感じました。アヒルも一口とくちばしでかじろうとしましたが、アヒルにはオレンジ色の実は硬すぎて食べられませんでした。ものは試しと草の部分をかじってみると、いい香りが口いっぱいに広がってそれはそれは幸せな気持ちになりました。
「こんなに美味しい草があるんだな!」
ふたりは1本の人参を分け合って堪能すると、満足そうにしばらく空を見上げました。


